手工業の多様化
自然の諸産業が発展するのに呼応して、手工業も多様に発展した。人口増加による労働力のゆとりや貨幣経済の浸透が手工業の発展を促した。手工業はまず都市の諸職人によって担われたが、農村の百姓や婦女子による農村家内工業の展開が全国各地の名産を生む原動力となった。
手工業の多様化
手工業(江戸時代)
織物 | 絹 | 西陣織(京都), 桐生織(上野), 伊勢崎絹(上野), 足利絹(下野), 米沢織・仙台織(平), 丹後縮緬 ・上田紬(信濃), 結城紬(下総), 博多織 |
木綿 | 小倉織, 久留米絣, 有松絞(尾張), 尾張木綿, 河内木綿, 真岡晒(下野) | |
麻 | 小千谷縮, 奈良晒, 越後縮, 近江麻, 薩摩上布 | |
陶器・漆器 | 陶器 | 京焼, 清水焼, 瀬戸焼, 備前焼 |
磁器 | 有田焼(備前), 九谷焼(加賀) | |
漆器 | 南部塗, 会津塗, 輪島塗, 春慶塗(飛騨) | |
製紙 | 日用紙 | 美濃, 土佐, 駿河, 石見, 伊予 |
高級紙 | 鳥の子紙,・奉書紙(越前), 檀紙(讃岐), 杉原紙(播磨), 美濃紙 | |
醸造 | 酒 | 伏見(京都), 池田・伊丹・灘(摂津) |
醤油 | 野田, 銚子(下総), 竜野(播磨) |
自然の諸産業が発展するのに呼応して、手工業も多様に発展した。人口増加による労働力のゆとりや貨幣経済の浸透が手工業の発展を促した。手工業はまず都市の諸職人によって担われたが、農村の百姓や婦女子による農村家内工業の展開が全国各地の名産を生む原動力となった。
織物業
織物業では、古代以来、麻が庶民の衣料であったが、戦国末期に綿作が朝鮮から日本に伝わると、木綿は庶民の衣料として普及した。木綿織物は女性による地機(いざり機)によって支えられた。河内・三河の木綿や近江の麻、奈良の晒など、織物の名産地も生まれた。絹織物は高級品であったがとくに金襴·緞子などは京都西陣の高機で独占的に織られた。しかし、これに準ずる絹織物は上野の桐生をはじめ、18世紀なかごろには伊勢崎、下総結城などの各地で生産されるようになった。
和紙
和紙は、雁皮を原料にする鳥の子紙などの中世以来の斐紙にかわって、楮を原料にする越前奉書紙や播磨の杉原紙など、楮紙の生産が増加した。流漉という技法が、大温に栽培できる楮を紙原料にすることを可能にしたためである。紙の生産地の多くで専売制がとられ、藩も生産を奨励した。その結果、安価な紙が庶民にまで大量に普及して、学問・文化を発達させ、人々の識字率を高める効果をもった。
陶磁器
陶磁器生産の進歩は、薩摩焼のように、豊臣政権期に強制的に移入させたものを含めて、朝鮮の陶工の技術(登窯や上絵付)に負うところが大きかった。肥前では佐賀藩の保護のもとで有田(伊万里)焼・鍋島焼などの磁器がつくられ、国内だけではなくオランダ東インド会社によってヨーロッパに多数輸出された。また、尾張の瀬戸や美濃の多治見のほか各地でも陶磁器が量産され、庶民も利用するようになった。
醸造
醸造業では、伏見・伊丹·灘の酒が知られ、元禄期以降、清酒が普及した。また、江戸近郊の野田や銚子でも醤油生産を行い始め、それまで竜野など上方からの下り物に限られていた醤油に、江戸独特の味覚が加わった。