源氏物語絵巻 院政期の文化
源氏物語絵巻 東屋一 (1130年頃/国宝)手前は女房に髪を梳かせている宇治の中の君(後姿)。中の君の右に横顔の見えるのは女房の右近。奥は浮舟。匂宮に強引に言い寄られて傷心の浮舟をなぐさめようと、異母姉の中の君は物語絵を持ち出す。右近が物語の詞書を朗読し、浮舟はそれを聞きながら冊子の物語絵に見入る。この図は、当時の物語鑑賞や絵画鑑賞のあり方を具体的に伝える貴重な資料である。 ©Public Domain

源氏物語絵巻


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源氏物語絵巻げんじものがたりえまき
源氏物語を題材にした絵巻物である。源氏物語を題材とする絵巻物は複数存在するが、本項では通称「隆能源氏たかよしげんじ」と呼ばれている平安時代末期の作品で、国宝に指定されている作品について述べる。

源氏物語絵巻

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源氏物語絵巻 院政期文化
源氏物語絵巻 竹河二 (12世紀初/徳川美術館蔵) 春三月、場所は玉鬘邸。玉鬘の娘・大君と中の君の姉妹を垣間見る蔵人少将(右端)。姉妹(左手の邸内)は壺前栽(中庭)の桜を賭け物にして碁を打っている。簀子にいる盛装の女性は女房たち。 ©Public Domain

概要

かつて「隆能源氏たかよしげんじ」と呼ばれてきた『源氏物語絵巻』は、源氏物語を題材にして制作された絵巻としては現存最古のもので、平安時代末期の制作であるとされている。『伴大納言絵詞』、『信貴山縁起絵巻』、『鳥獣人物戯画』(いずれも国宝)とともに日本四大絵巻と称される。なお、日本四大絵巻には鳥獣人物戯画の代わりに『粉河寺縁起絵巻』をあげる見解も存在する。

本来は源氏物語の54帖全体について作成されたと考えられている。各帖より1ないし3場面を選んで絵画化し、その絵に対応する物語本文を書写した「詞書」を各図の前に添え、「詞書」と「絵」を交互に繰り返す形式である。全部で10巻程度の絵巻であったと推定される。

現存状況

本絵巻で現存するのは絵巻全体の一部分のみである。

名古屋市の徳川美術館に絵15面・詞28面(蓬生、関屋、絵合(詞のみ)、柏木、横笛、竹河、橋姫、早蕨、宿木、東屋の各帖)、東京都世田谷区の五島美術館に絵4面・詞9面(鈴虫、夕霧、御法の各帖)が所蔵され、それぞれ国宝に指定されている。
徳川美術館に所蔵されている3巻強はもと尾張徳川家にあったものである。一方、五島美術館にある1巻弱はもと阿波蜂須賀家にあったものが明治20年頃に他の美術品などと一括して美術商柏木探古に売却され、その後実業家で茶人の益田孝(鈍翁)の所蔵となり、さらに戦後になって東京コカ・コーラボトリングの創業者・高梨仁三郎の所有となり、東急グループの総帥・五島慶太が同人の死の直前に買い取ったものである。この両者が、それぞれ尾張徳川家・蜂須賀家に入る以前の伝来は不明である。ただし、一部では、徳川・五島本『源氏物語絵巻』の来歴について、幕末に鷹司家から尾張徳川家、蜂須賀家に子女が嫁いでいることから、その嫁入り本として絵巻が贈られた可能性を示唆されている。 両者とも1932年(昭和7年)、保存上の配慮から詞書と絵を切り離し、巻物の状態から桐箱製の額装に改めた。

このほか、東京国立博物館に若紫の巻の絵の断簡があり、書芸文化院の春敬記念書道文庫に飯島春敬が収集した末摘花、松風、常夏、柏木の詞書の断簡が、その他数箇所に若紫、薄雲、少女、蛍、柏木の詞書の断簡が所蔵されている。但し個人蔵とされているものの中には現在所在不明になっているものもあるとされている。2015年11月13日、徳川美術館により源氏物語絵巻の修理過程で計3面から構図の異なる下絵が見つかったと発表された。

名称

本項で解説する「源氏物語絵巻」は絵師を藤原隆能と伝えることから一般に「隆能源氏」と呼ばれていた。源氏物語を題材にした絵巻物が数多くある中で国宝に指定されているものはこれだけであることから「国宝源氏物語絵巻」と呼ばれることもある。この呼称は所蔵先の五島美術館や徳川美術館のオフィシャルサイトやパンフレットなどにおいてしばしば使用されている。また所蔵先の名前を冠する形で「徳川本源氏物語絵巻」「五島本源氏物語絵巻」等と呼ばれることもある。

源氏物語を題材にした絵巻物は数多く存在し、「源氏物語絵巻」という名称で呼ばれる絵巻物もいくつか存在する。国宝本以外の著名な「源氏物語絵巻」としては狩野尚信によるもの、久隅守景によるもの、狩野栄川によるもの等がある。しかしながら現存している源氏物語を題材にした絵巻物の中では、「隆能源氏」が最も古く、最も著名であることから、単に「源氏物語絵巻」と呼ぶ場合には「隆能源氏」を指すことが多い。

画風

かつてこの「源氏物語絵巻」は平安時代末期に名高い絵師として活躍した藤原隆能が1人でこれを描き上げたと考えられていたために一般的に「隆能源氏」といった呼ばれかたをされていた。しかしながらこの絵巻を藤原隆能の作であるとすることについては特に確証はなく、江戸時代の鑑定家住吉広行(1755年(宝暦5年)-1811年(文化8年))が『倭錦』において言い始めたことであり、「隆能源氏」なる呼び方が広まったのは明治時代以後のことであるとされている。

参考 Wikipedia

絵巻物の技法

源氏物語絵巻
源氏物語絵巻 東屋一 (国宝)©Public Domain
  • 吹抜屋台:屋内の様子を表すため、屋根や壁を描かない方法。
  • 俯瞰描写ふかんびょうしゃ:奥行きを出し、多くのものを描くため、高所から見下ろした視点で描く方法。
  • 移時同図法:時間の流れを表すため、1つの場面に同一人物を2度・3度と描く方法。
  • 引目鉤鼻ひきめかぎばな:斜めから見た下ぶくれの顔に、一直線に目を引き、鼻を短く鉤型「く」に描く表現技法。
参考
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国宝・重要文化財データ

徳川美術館蔵

  • 紙本著色源氏物語絵巻〈絵十五面/詞二十八面〉
  • 員数: 43面
  • 種別: 絵画
  • 国: 日本
  • 時代: 平安
  • 国宝・重文区分: 国宝
  • 国宝指定年月日: 1952.03.29(昭和27.03.29)
  • 所在都道府県: 愛知県
  • 所在地: 徳川美術館 愛知県名古屋市東区徳川町1017
  • 保管施設の名称: 徳川美術館
  • 所有者名: 公益財団法人徳川黎明会
  • 解説文: 平安時代の作品。

五島美術館蔵

  • 紙本著色源氏物語絵巻〈絵四面/詞九面〉
  • 員数: 13面
  • 種別: 絵画
  • 国: 日本
  • 時代: 平安
  • 国宝・重文区分: 国宝
  • 国宝指定年月日: 1952.03.29(昭和27.03.29)
  • 所在都道府県: 東京都
  • 所在地: 東京都世田谷区上野毛3-9-25
  • 保管施設の名称: 公益財団法人五島美術館
  • 所有者名: 東京急行電鉄株式会社
  • 解説文: 平安時代の作品。

参考 国指定文化財等データベース

外部リンク

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