一体化する世界
世界の一体化は、大航海時代以後どんどん進行し、それまで関係のなかったアジアやアフリカの奥地も、オセアニアのようなところも、つぎつぎとこの巨大なネットワークに組み込まれていった。中心となる地域や取引される商品は時代によって変化していくが、近代の歴史は常に世界が一体になるかたちで展開していくのである。
一体化する世界
アメリカ銀が大量に流入したことは、スペインのみならずヨーロッパ全域、さらにはアジアを含む世界全体に大きな影響を与えた。近世初期の世界の金銀の生産では、アフリカのサハラの金や南ドイツのティロルの銀が知られていたが、ヨーロッパ人の対外進出にともなって、メキシコとペルーの銀および日本の貴金属が、大量に供給されることになった。こうした貴金属のなかでも、銀は先住民やアフリカから連れてこられた黒人奴隷の強制労働によって生産され、イギリス人などの海賊行為(私拿捕)をさけるために、護衛船団を組んでスペインに届けられた。
その結果、銀の流通量が急速に増加したことが一因となって、ヨーロッパで激しいインフレーション(いわゆる「価格革命」 大航海時代がもたらしたもの)がおこった。16世紀をつうじて、物価を数倍に引き上げることになったこのインフレには、ヨーロッパ全域における人口の激しい増加という原因もあったが、いずれにせよ、この物価騰貴によって額面の固定した地代に依存する伝統的な封建貴族は苦境にたち、資本家的な活動をする新たなタイプの地主や農業経営者は、大きな利潤を獲得するようになった。
しかし、すべての銀がそのままヨーロッパにとどまることはなく、胡椒や綿布や絹、さらにのちには茶のようなアジアの産物とひきかえに、その多くが東方に送られた。伝統的に金と銀の相対的な評価がアジアでは銀に有利であったことも、この動きを促進した。この結果、中国などには銀が蓄積され、全国的に銀納の税制が成立した。
こうして銀は、4つの大陸、すなわち当時知られていた限りの世界をひとつに結びつけ、それぞれの地域に、現代に直結する深刻な歴史的影響を与えたのである。
奴隷として多くの労働人口を引き抜かれることになったアフリカ、奴隷制プランテーションによる砂糖キビやタバコ・綿花などのモノカルチャー(単作)が展開して社会がいびつにしか発展しなくなり、いまも開発途上の状態にあるラテンアメリカ、深刻な黒人問題の解決に苦悩するアメリカなどは、その典型的な例である。ヨーロッパでは、銀はインフレーションをおこしたうえ、貨幣として流通の発展を助け、封建制から資本主義への移行を促進したものと考えられる。