魔術と科学
ヘルメス・トリスメギストス (シエナ大聖堂舗床のモザイク画) ©Public Domain

魔術と科学

ルネサンス期は近代科学の芽が生まれた時代とされる。まだ占星術や錬金術と必ずしも明確に区別できない側面もあり、占星術や錬金術に影響を持ったのは ヘルメス主義である。プラトンのイデア説を発展させ、神秘主義思想にもつながる 新プラトン主義も流行した。迷信、魔術、神秘主義、科学は混然として、まだ明確には分かれていなかった。

魔術と科学

ルネサンス期は近代科学の芽が生まれた時代とされる。しかし当時の知識や技術の体系は地中海世界のヘレニズム文化・イスラーム文化から多くのものをうけつぎ、そのなかには現代からみれば魔術とされるような要素も入りまじっていた。

占星術

占星術は、古代オリエント世界以来の天文に関する知識の蓄積をもとにヘレニズム世界・ローマ世界でさかんにおこなわれ、イスラーム世界をつうじて、ヨーロッパ世界へとひきつがれた精緻な知識体系でもあった。占星術は、恒星、太陽、月の位置、複雑な惑星の動きを観察し、それらを地上の諸事件や人の運命と関連させて説明しようとした。占星術の知識は、天文学の基礎となった知識でもあった。

錬金術

錬金術も占星術と同じくイスラーム世界からヨーロッパに伝えられた( 学問の発達)。これはさまざまな物質を金に変えることができると信じる怪しげな技術といっただけのものではない。錬金術は、さまざまな金属化合物、素材物質の性質を分析し、膨大な科学的な知識を蓄積し、ある種の知識、技術体系を作りあげていた。錬金術師は化合や融合の過程、アルコールやアルカリ、磁性を持つ鉱物などの性質を知り、化学的変化を物質のもつ神秘的な力と考え、さまざまな実験を繰り返していた。

近代科学の芽

近代科学の芽も、こうした占星術や錬金術と関連をもちながら登場してくるのである。ルネサンス期の科学は、占星術や錬金術と必ずしも明確に区別できない側面もあった。宇宙や人間とそれを支配する基本原理について、占星術や錬金術に影響をもったのは ヘルメス主義である。架空の古代哲学者ヘルメス・トリスメギストスの著書とされる『ヘルメス文書』が15世紀の人文主義者マルシリオ・フィチーノにより翻訳され( 新しい人間観と人間像 – メディチ家の「プラトン・アカデミー」)、当時多くの知識人に読まれていたのである。プラトンのイデア説( ギリシア文化)を発展させ、神秘主義思想にもつながる 新プラトン主義も流行した。迷信、魔術、神秘主義、科学は混然として、まだ明確には分かれていなかった。

『ヘルメス文書』群と呼ばれるものは紀元前のエジプトのヘレニズム文化のなかで生まれた文書群で、イスラーム世界では早くから知られていた。魂・物質・現象や人間と宇宙の関係を説いている。これらは古代末期神秘主義思想、神秘的・オカルト的な知識の体系で、16世紀〜17世紀の知識人の関心をひいたものである。