スパルタカス 1960年のアメリカ映画。
共産圏で第三次奴隷戦争の主導者・スパルタクスが高く評価されたため、冷戦時代のアメリカで警戒されるようになり、赤狩りが吹き荒れていた1951年にハワード・ファストが著した小説『スパルタカス』は商業出版社から出版拒否をされ、自費出版を余儀なくされたが、ベストセラーとなり、これを原作にした本作が1960年に公開され、脚本は赤狩りでハリウッドを追放されたダルトン・トランボが務めた。アカデミー賞4部門を受賞した。
スパルタカス
共和政ローマ時代の三次奴隷戦争の背景を知ることができる歴史映画。
背景
本作の時代背景と登場人物
第三次奴隷戦争
紀元前73年から紀元前71年にかけて共和政ローマ期にイタリア半島で起きたローマ軍と剣闘士・奴隷による戦争である。3度の奴隷戦争の中で最後にして最大規模のものであった。剣闘士らの指導者スパルタクスの名にちなんでスパルタクスの反乱またはスパルタクスの乱とも呼ばれる。
奴隷
共和政ローマ時代の奴隷は過酷かつ抑圧的に扱われた。ローマの法律では奴隷は人間ではなく財産と見なされていた。所有者は自らの奴隷を法的制約を受けることなく虐待し、傷つけそして殺すことができた。奴隷にはさまざまな階層や形態があったが、最も低くそして数の多い階層である農場や鉱山の奴隷は過酷な肉体労働を生涯にわたって強いられた。
登場人物
スパルタカス(モデル:スパルタクス)
紀元前73年に仲間の剣闘士とともに南イタリアのカプアの剣闘士養成所を脱走してヴェスヴィウス山に立て籠もり、討伐隊を撃退した。近隣の奴隷たちが反乱に加わって数万から十数万人の軍衆に膨れ上がり、紀元前72年には執政官の率いるローマ軍団を数度にわたって打ち破ってイタリア半島を席巻した。紀元前71年になるとクラッススの率いる軍団によってイタリア半島南端部に封じ込められ、クラッススとの決戦に敗れた奴隷反乱軍は全滅し、スパルタクスも戦死した。近現代になると再評価され、カール・マルクスは「古代プロレタリアートの真の代表者」と評した。
クラッサス(モデル:マルクス・リキニウス・クラッスス)
元老院は第三次奴隷戦争の討伐に対処するがことごとく失敗する中、富豪のクラッススは、自らの財産で訓練された新しい部隊を率いてスパルタクス軍討伐を申し出る。クラッススはレガトゥス(総督代理)のムンミウスへ戦闘を避けて様子を窺うよう指示したが、ムンミウスはスパルタクスへ戦いを仕掛けたため、ローマ軍は多くの死者を出し、兵の多くも逃亡する無残な敗北を喫した。クラッススは見せしめとして十分の一刑を兵士らに実施、兵士達を奮い立たせたものの、信望を失うことともなった。
紀元前71年、クラッスス率いるローマ軍団はルカニアでスパルタクス軍を包囲した。ヒスパニアからポンペイウス、トラキアからルキウス・リキニウス・ルクッルスの弟マルクス・テレンティウス・ウァッロ・ルクッルスがイタリアへ向かっていると知らせを受けたスパルタクスはクラッスス軍との戦闘を決意、両軍は激突したが、スパルタクスを含む多くの剣闘士・奴隷が戦死して、6,000人の反乱軍兵士を捕虜とした。クラッススは捕虜とした6,000人の兵士全てをアッピア街道に沿って磔刑に処した。処刑された奴隷兵の死体は下ろされずにしばらくの間見せしめとして晒されたと伝わっている。
グラッカス(モデル:グラックス兄弟)
ティベリウスの改革:グラックス兄弟の兄・ティベリウス・グラックスは護民官に就任し、ラティフンディウムによる公有地の占有を制限することで無産市民に土地を再分配し、自作農を創出することを目指し、法案を民会に提出し成立させたが、元老院の反発を招き、は暗殺された。
ガイウスの改革:グラックス兄弟の弟・ガイウスは護民官に就任し、穀物法を成立させて貧民を救済するが、ラテン同盟市に対するローマ市民権公布を巡って元老院と対立し、元老院最終勧告を出されて自殺に追い込まれた。
ジュリアス・シーザー(モデル:ガイウス・ユリウス・カエサル)
第三次奴隷戦争の時期のキャリア初期のカエサルは軍の士官職を持っていたが、活躍をしたという記録は無い。
クリクサス(モデル:クリクスス)
第三次奴隷戦争の反乱軍指導者の一人。スパルタクスとともにカプアの養成所を脱走してローマに対する反乱を起こした。紀元前72年に反乱軍が北上を開始するとスパルタクスと分離して別行動をとり、執政官の率いるローマ軍団と戦って敗死した。
遺跡
カプアの円形闘技場
カプア(現在のサンタ・マリーア・カープア・ヴェーテレ)
あらすじ
共和政ローマ時代、リビアの鉱山で働くトラキア人奴隷のスパルタカス(カーク・ダグラス)は倒れた奴隷を助けようとして衛兵に反抗し、飢え死にの刑に処せられたが、鉱山に剣闘士の卵を探しにきた剣闘士養成所主のバタイアタス(ピーター・ユスティノフ)に見出され、カプアの養成所に連れて行かれた。
養成所にてスパルタカスはバタイアタスと剣闘士上がりの教官であるマーセラスに目を付けられて幾度か屈辱を味わうが、そこで働く女奴隷のヴァリニア(ジーン・シモンズ)とはお互いに好意を持つ仲となった。そんなある日、ローマの閥族派(オプティマテス)の大物であるクラッサス(ローレンス・オリヴィエ)が養成所を訪れ、剣闘士同士の真剣試合を所望した。バタイアタスは真剣試合が剣闘士達に及ぼす悪影響を考えて断ったが、クラッサスは大金を積んで強要した。スパルタカスはレティアリィの黒人剣闘士ドラバ(ウディ・ストロード)と闘うことになり、激しい闘いの末スパルタカスは剣を失い、ドラバにとどめを刺されるだけとなった。しかしドラバはクラッサスらの命に従わず、とどめを刺すどころか、その槍でクラッサスらに襲い掛かったが、衛兵によって阻まれ殺された。ドラバの死体は養成所内に見せしめとして逆さづりにされた。その後、クラッサスは接待に出たヴァリニアをみそめて、バタイアタスから購入する約束をして引き上げた。
翌日、売られていくヴァリニアの姿を目撃したスパルタカスは、怒りにまかせてマーセラスに襲い掛かり、他の剣闘士と協力してマーセラスと衛兵を殺害した。その勢いのまま剣闘士達は養成所を制圧。やがてヴェスヴィオ山中に立てこもって、他の奴隷達を仲間に加えてその数は急速に膨れ上がった。その中にローマに向かう途中で逃げ出したヴァリニアもおり、スパルタカスと結ばれることになった。
ローマでは、奴隷の反乱に対して、元老院の中でクラッサスら閥族派と対立する民衆派の大物グラッカス(チャールズ・ロートン)はクラッサスの親友グラブラスをたきつけてその指揮するローマ市兵団によって反乱鎮圧に向かわせ、同じ民衆派の仲間のジュリアス・シーザー(ジョン・ギャヴィン)をローマの留守兵団の司令官に任ずることに成功した。同じころクラッサスはシチリア人の青年奴隷で詩吟を専門とするアントナイナス(トニー・カーティス)を購入し、側に置こうとしたが、アントナイナスはスパルタカスのもとに逃亡した。グラブラスは、相手が奴隷であると油断しており、スパルタカスは彼の兵団を奇襲攻撃で打ち破った。
スパルタカスの指揮の下、反乱軍は東方のキリキア海賊の船によってイタリアから脱出するため、南イタリアのブリンディジ目指して南下した。これを阻止すべく正規軍であるローマ軍団が投入されたが、いまや数万に膨れ上がったスパルタカスの反乱軍は次から次へとそれらを打ち破った。敵対するクラッサスが奴隷討伐軍の総司令官に任命されて権力を握ることを恐れるグラッカスは、海賊と共謀してスパルタカスを安全に脱出させようとしたが果たせず、ついにクラッサスは元老院によって筆頭執政官兼全軍総司令官に指名され、8個軍団を率いてスパルタカスの討伐に向かうこととなった。
スパルタカスの軍勢はブリンディジの手前まで到着していたが、キリキア海賊はクラッサスによって買収されて撤収してしまった。更にスペインからポンペイウス、小アジアからはルクッルス(英語版)の軍団がクラッサスの増援として到着していた。絶望的な状況の中スパルタカスはローマに進撃してクラッサスの主力を打ち破ることによって、この戦争を一気に終結させることを決意する。劇中では、イタリア脱出まであと一歩と言うところで再びローマに進軍しなければならないことを全員に告げるスパルタカスと、ローマ出撃に際して反乱軍を撃滅し、スパルタカスを捕らえることを宣誓するクラッサスが、対照的に描写される。クラッサスはバタイアタスを陣中に留め置き、スパルタカスを生死を問わず見つけ出すように命じた。
反乱軍の前に整然と姿を現すローマの大軍団が印象的な、この映画のクライマックスとなる決戦は、ポンペイウスとルクッルスの増援もあって反乱軍の完全な敗北に終わり、スパルタカスを含めわずか数千人が生き残っただけだった。クラッサスはスパルタカスを差し出せば他の奴隷の命は助けると約束したが、奴隷たちは異口同音に自分こそがスパルタカスであると名乗り出る。その結果、全員がアッピア街道沿いに磔にされることになった。その途中、クラッサスはかつてのバタイアタスの養成所でまみえたスパルタカスの顔を思い出し、アントナイナスと共に、2人を磔の列の最後に留めることにした。
クラッサスは生まれたばかりのスパルタカスの息子と共にヴァリニアを見つけ、自分の手元に置いたが、その心をつかむことはできなかった。クラッサスを憎むグラッカスに依頼されたバタイアタスはヴァリニアをひそかに連れ出したが、グラッカスはクラッサスの命を受けたシーザーに逮捕され、ローマ追放を宣告された。一方クラッサスはローマの城外でアントナイナスとスパルタカスの2人に真剣試合をさせ、勝者は磔にすると命じた。お互いを磔にしたくない2人は必死に戦い、やがてスパルタカスは勝利し、磔にされた。政争に敗れたグラッカスは自害を決意したが、その直前ヴァリニアとその子供を自由人にする書類を作成し、バタイアタスに託した。
バタイアタスはヴァリニアを連れてローマ城外に脱出したが、城門の外に磔にされたスパルタカスを見つけたヴァリニアは息子を抱いて馬車を降りてスパルタカスのもとに駆け寄り、息子は自由になったと伝えた。スパルタカスは静かにうなずき、やがて息を引き取った。ヴァリニアはバタイアタスにせかされて馬車に戻り、去っていった。
あらすじ: wikipediaより