フリギア (Phrygia): 現在のトルコの中西部に存在した地域・王国名。ヒッタイト滅亡後トラキア方面から侵入したフリギア人が王国を建て、前8世紀を中心に栄えた中央アナトリア北西部地域。王国は前7世紀初キンメリア人の侵略により崩壊し、その後リディア王国の支配下に入った。
フリギア人(Phrygians): インド=ヨーロッパ語族のフリギア語を話す人々。ヨーロッパから紀元前12世紀頃移住してこの地域を支配し、紀元前8世紀に王国を建てた。紀元前7世紀末頃キンメリア人の支配に屈し、その後隣接するリディア、さらにペルシャ、アレクサンドロス3世(大王)とその後継者たち、そしてペルガモン王国に支配されたのち、ローマ帝国領内の地域名として名を残した。フリギア語は6世紀頃まで残った。
フリギア
ギリシア神話
ゴルディアスの結び目
その昔、権力争いにあけくれたフリギアでは、世継ぎの王がいなくなってしまった。そこでテルメッソスの神サバジオスに、臣民が次の王がいつ現れるかの託宣を仰いだ。すると、預言者の前に牛車に乗ってやってくる男がフリギアの王になる、という神託がくだった。ちょうど神殿へ牛車に乗って入ってくる男がいたが、それは貧しい農民のゴルディアスであった。にわかには信じがたい神託であったが、ゴルディアスの牛車には、神の使いの鷲がとまっていたため、それを見た占い師の女が、彼こそが次の王だと高らかに叫んだ。 ゴルディアスは王として迎えられ王都ゴルディオンを建てた。ゴルディアスは神の予言に感謝を示すため、乗ってきた牛車を神サバジオスに捧げた。そしてミズキの樹皮でできた丈夫な紐で荷車の轅を、それまで誰も見たことがないほどにしっかりと柱に結びつけ、「この結び目を解くことができたものこそ、このアジアの王になるであろう」と予言した。その後、この荷車を結びつけた結び目はゴルディアスの結び目として知られ、結び目を解こうと何人もの人たちが挑んだが、結び目は決して解けることがなかった。
数百年の後、この地を遠征中のマケドニア王アレクサンドロス3世(アレクサンドロス大王)が訪れた。彼もその結び目に挑んだが、やはりなかなか解くことができなかった。すると大王は剣を持ち出し、その結び目を一刀両断に断ち切ってしまい、結ばれた轅はいとも簡単に解かれてしまった。折しも天空には雷鳴がとどろき、驚いた人々を前に、大王の従者のアリスタンドロスは「たったいま我が大王がかの結び目を解いた。雷鳴はゼウス神の祝福の証である」と宣言した。後にアレクサンドロス3世は遠征先で次々と勝利し、予言通りにアジアの王となったという。
この神話部分は、古い伝承ゆえの多くのバリエーションが存在する。ゴルディアスにはミダースという息子がおり、その息子が王になったとする話や、占い師の女と結婚したとする話などもある。
この故事によって、手に負えないような難問を誰も思いつかなかった大胆な方法で解決しまうことのメタファー「難題を一刀両断に解くが如く」(英: To Cut The Gordian Knot )として使われる。
ミダース
トラキアにいたミダースはシレノスを助けたことでディオニューソスに感謝され、触れたものすべてを黄金にする能力をもらった。しかし何でも黄金にする手に困り、この「けがれ」をパクトロス川で払うためにアナトリアにやってくる。彼は川に黄金を残し(砂金の起源説話)たのち、ゴルディアス王と女神キュベレに養子として認められ、次の王となった。
参考 角川世界史辞典