井原西鶴
井原西鶴像(生國魂神社)画像出典:WIKIMEDIA COMMONS

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井原西鶴 いはらさいかく( A.D.1642〜A.D.1693)

大坂の町人出身で、当初は談林俳諧に身をおいて、自由奔放な作句を行い、大いに才能を誇示したが、類いまれな創造力が発揮されたのは、新しい文学の分野である「浮世草子」(小説)においてである。好色物『好色一代男』は菱川師宣が挿絵を担当した。好色物、武家物、町人物、雑話物などを通して、人間生活を赤裸々に描き、以後の小説界に多大の影響を与えた。

井原西鶴

江戸時代前期の俳人、浮世草子作者。本名、平山藤五。西鶴は俳号。別号、四千翁、二万翁、松風軒、松寿軒など。大坂の商家に生れ、15歳頃から俳諧を学び、21歳で点者となった。初め貞門に入り、鶴永と号した。のちに談林派に参加。目新しい風俗詩的傾向により阿蘭陀オランダ流と呼ばれ、異端視された。延宝1 (1673) 年の『生玉万句』以来しばしば矢数俳諧を催し、貞享1 (84) 年住吉社頭で一昼夜2万 3500句の驚異的独吟を行なった。かたわら天和2 (82) 年の『好色一代男』以後、浮世草子を次々と発表。いわゆる好色物、武家物、町人物、雑話物などを通して、人間生活を赤裸々に描き、以後の小説界に多大の影響を与えた。代表作『西鶴諸国はなし』『好色五人女』『好色一代女』『男色大鑑 (なんしょくおおかがみ) 』『武道伝来記』『武家義理物語』『日本永代蔵』『世間胸算用』『西鶴置土産』『西鶴織留』など。

参考 ブリタニカ国際大百科事典

町人生活を描き続けた浪花の巨匠

俳諧の世界から浮世草子へ転身

裕福な大坂商人の家に生まれた井原西鶴は、若くから俳諧を学んだ。西鶴の俳諧はとくに奔放で、これを自ら「阿蘭陀流おらんだりゅう」と称し、新鋭の俳諧師として注目された。43歳のとき、2万3500句独吟という記録を打ち立てて、家業をおろそかにするほどのめり込んだ俳諧の世界と決別する。師匠の西山宗因にしやまそういんの死が転機となったともいう。西鶴が処女小説『好色一代男』を書いたのは、41歳のとき。まだ俳諧師として活躍していた頃だ。当初は、ごく親しい友人たちに限って配ったものだったが、これが意外な好評を呼び、江戸の本屋が日をつけた。当時の一流絵師だった菱川師宣が挿絵を担当し、主人公・世之介よのすけ一代の、女色・男色の諸相を描き、その斬新さと娯楽性が、町人層に大いに受け入れられた。その後、好色物ばかりでなく、雑話物・武家物・町人物など多彩な作品を発表し、浮世草子(現実を写した風俗小説)というジャンルを確立した。短い説話をまとめた形式で、色と欲、金銭に支配される人間の性を鋭く観察し、さまざまな階層の人々を描き続ける。晩年、50歳を過ぎたあたりから、西鶴は浮世草子から遠ざかり、決別したはずの俳諧の世界に一戻る。しかし、往時の軽快さは薄れ、人生を省みるような作風に転じていた。

井原西鶴:西鶴は晩年に至って西鵬と名乗る。これは、時の将軍徳川綱吉が娘の鶴姫を愛するあまり、庶民に対し名前に「鶴」の字を使用することを禁止した「鶴字法度」のためである。

幕藩体制の展開

元禄文化

元禄期の文学

元禄期の文学は上方の町人文芸が中心で、松尾芭蕉(1644〜94)・井原西鶴(1642〜93)・近松門左衛門(1653〜1724)がその代表である。

元禄期の文芸

小説仮名草子浅井了意『東海道名所記』
浮世草子井原西鶴『好色一代男』『好色五人女』(好色物)
『武家義理物語』『武道伝来記』(武家物)
『日本永代蔵』『世間胸算用』(町人物)
俳諧貞門派松永貞徳『御傘』(古風、俳諧の規則を定める)
談林派西山宗因『西翁十百韻』(新風、自由・軽快)
蕉風松尾芭蕉『俳諧七部集』(冬の日・春の日など)
俳文松尾芭蕉『野ざらし紀行』『笈の小文』『奥のほそ道』
脚本浄瑠璃近松門左衛門『曽根崎心中』『心中天網島』『冥途の飛脚』(世話物)
国性爺合戦』(時代物)
古典契沖『万葉代匠記』
北村季吟『源氏物語湖月抄』
参考: 山川 詳説日本史図録

井原西鶴は大坂の町人出身で、当初は談林俳諧に身をおいて、自由奔放な作句を行い、大いに才能を誇示したが、俳諧そのものの芸術性を示すにはほど遠かった。西鶴の類いまれな創造力が発揮されたのは、新しい文学の分野である「浮世草子うきよぞうし」(小説)においてである。江戸時代初期からの仮名草子は、小説のほか宗教書·教訓書などの総称であるが、浅井了意あさいりょうい(1612?〜91)の作品などは、いずれも武士身分を読者として想定されたものであった。これに対して西鶴の「浮世草子」と総称される小説の数々は、広く町人層を読者対象とした。西鶴の作品は大きく好色物こうしょくもの町人物武家物の三つにわけることができる。好色物は『好色一代男』『好色五人女』『好色一代女』などである。1682(天和2)年に書かれた『好色一代男』は主人公世之介よのすけの7歳から60歳までの色道遍歴しきどうへんれきを描写したもので、そのような主人公はそれ以前の文学にはかつて存在しなかった。『好色五人女』は5人の女主人公の恋愛事件を描いた作品だが、この女性はいずれも商家の女たちで、江戸時代の市井しせいの身近な女性の情熱的な性を描いた傑作であった。

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西鶴の町人物には『日本永代蔵』や『世間胸算用』などがある。そのなかで最も傑作とされる『日本永代蔵にほんえいたいぐら』は、財をなした町人の物語30話を集め、商人の道はひたすら銭もうけにあり、勤倹貯蓄きんけんちょちく、信用、オ覚や忍耐力を美徳として繰り返し説く。ー方、『世間胸算用』は大晦日を舞台に、かつかつに世を生きる人々の姿を20の物語に活写する。これらの町人物と対照的に、西鶴は武家物で武士の道を描く。『武道伝来記』や『武家義理物語』などである。『武道伝来記』は、敵討ちを共通題材に32編を、『武家義理物語』は武士にとって望ましい義理を25の挿話にまとめあげ、義理のためには命を縮めることもある、それが武士の世界だと説く。

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